2019年7月27日土曜日

慶應義塾大学理工学部創立80年記念イベント(2019/6/26)感想等 -量子コンピュータ編(午後)-


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IBM Q Network Hub @ Keio University presents 量子コンピュータ最前線(午後)

午前より参加者がかなり多い。開始五分前で1F席がほぼ埋まっていたようで2F席に案内された。(午前は1F席も割とガラガラだったが。)外国人が多く、日本語講演も特定の人たち向けの同時翻訳が行われていた様子。

挨拶(慶應義塾大学 理工学部長 岡田英史氏)

  • モアムーアの世界に到達しているが、何が起きるのかは予測できていない。昨年IBM Qにアジアで唯一接続できる拠点として選択されたので、量子コンピューティングセンターを立ち上げて研究推進。アジアのハブなので協力企業の参加もあり精力的に推進している。


量子コンピュータ最前線(慶應義塾大学 理工学部 教授 量子コンピューティングセンター ファウンダー 伊藤公平氏)

  • 量子ビットではふり幅と位相。棒磁石で考えると、古典ビットでは縦向きとその逆しかありえず横向きがエラー。量子ビットはラビ振動でエネルギーを与えているうちは振動を繰り返す。横向きは0でもあり1でもあり、測ってみると50%の確立で0。これがものすごいパワーになる。それを2つ準備すると、最初0からエネルギー与えて横向きにして、もう一つは少し遅れて同じようにして、の差(位相差)が重要。これらすべてを利用することで量子コンピュータのパワーが発揮される。
  • 3つの量子ビットを横向きにすると、000でもあり001でもあり8通りの数字を含む。10進数でいうと0~7までの数字すべてを含み、2のn乗通りの数が一気に処理でき、200量子ビットは2の200階乗、1.6×1060乗、宇宙の原子数を一気に計算できる。
  • 初期かはすべて上向き。演算でNOTにして逆向き。1つの量子ビットの状態で位相を変える(量子ビット演算)で、すべての量子コンピュータプログラミングが実施される。最後に一つ一つ読みだす。ふつうのPCと違うのは0or1ではなく0でも1でもありさらに位相に情報が載る。量子ビットの数が多い、演算精度、回数、速度が性能指標。100%の精度は得られないので精度が問題。情報を失うまでにどれだけ回数ができるか。Quantum Volume(量子体積)はIBM提案の指標で、大きくなるほど性能があがる。
  • 今の量子コンピュータはゲート方式、万能量子コンピュータ。IBMGoogleRigetti等。イジングマシン方式(最適化方式)、アニーリング方式、レーザーネットワーク方式等もある。
    • アニーリングは量子ビットをたくさん用意して真横にして重ね合わせて相互作用を操作して自然に落ち着くまで待つ。積極的にゲートでNOT演算しない。D-WaveNEC。古典コンピュータによる量子アルゴリズムを行うシミュレータ・シミュレーションもある。「シミュレーションの結果」とは古典で量子走らせたものを言う。それを早くすると、日立CMOSアニーラー、富士通デジタルアニーラー、東芝シミュレーテッド分岐アルゴリズムがあり。
    • レーザーネットワーク方式は準量子。国立情報学研究所とNTT
  • アメリカは220億円/年。日本は220億円/10年(Q-Leapプログラム)。ヨーロッパでもPJあり。中国では知らないレベル。
  • 日本は基礎研究は相当進んでいる。Top1%論文の割合で、2011年は一位だが今は4位。
  • 量子コンピュータは物理現象の解明、難病の治療薬、人口肥料、その他さまざまな分野へ活用。
  • 超電動量子コンピュータ IBM 50量子ビット。Google72Intel49Rigetti19Intelはシリコンを使って量子コンピュータ作っている。300mmレベルのコンピュータをオレゴンで開発。
  • 意味のある計算をするため、量子ソフトウェア企業が立ち上がっている。MDRMicrosoft等。開発は激烈。何ができるか、を頑張らないと国、企業として負けてしまう。
  • まず、2023年にかけて、現在のコンピュータの発展を支え、ムーアの法則を維持するため、苦手な部分を補完するコンピュータ、ソフトウェアの開発。2028年に、従来の計算性能を飛躍的に超越する量子シミュレータ、コンピュータ、ソフトウェアの開発。Quantum Leap、量子跳躍。
    • それでも一部の分野にとどまる。創薬、化学製品、医学、高度な金融派生商品等。
  • JSTの「さきがけ」で量子の状態制御と機能化、で日本から30名ほど選び研究のアドバイザ、マネジメント。
  • QLEAP予算は産業課のためのスタートアップ資金。投資につながる礎。6つのPJが走っている。冷却原子、シリコン等ハードウェア部門もあり。ソフトウェアも大阪、慶応等。


IBM Q SystemIBMリサーチ IBM Q ネットワーク グローバル・リード Dr. Anthony Annunziata

  • 英語講演+逐次翻訳。
  • Bits + neurons +qubits。将来を担うが唯一の技術ではない。伝統的なPCbitAIneuronを組み合わせて作っていくのが将来のコンピューティング。
    • Bit01.今後何年も継続する。
    • Qubitsは量子縺れ、重ね合わせを基本的な構造として持つ。今後の重要な要素。
  • 単に演算が早い、ではなく、まだ解くことができない難しい問題が解ける可能性があることで騒がれている。
  • IBMでは2年前に3つのPGを立ち上げ。Q SystemQISKIT CommunityQ NetworkQ SystemIBM外部にも使ってもらう。CommunityOpen Software
  • Q OpenQ PremiumSimulator1850万を超えるExecutions。非常にパフォーマンスが高い実行が増えているのも注目に値する。ソフトウェア、ツールもそろえている。研究論文も172件として順調に伸びている。


IBM Q HubKeio(慶應義塾大学 理工学部 教授 量子コンピューティングセンター センター長 山本直樹氏)

  • IBMワトソン研究所にPG送信し、計算結果が戻ってくる。本体があるわけではない。ニューヨーク。ほとんどは冷やすための器具でできている。(←ちらっとPowerPointで出された写真では、有馬温泉にひょこひょこ立っている温泉設備の鉄塔ようなものが山奥にぽつんとある感じ。下は写真では隠されていて分からない。https://newswitch.jp/p/11726 この写真か?(←よく見ると全く温泉設備とは異なっていた……))
  • Hub参加企業としてJSR、三菱UFJ、みずほ、三菱ケミカル等。
  • IBN主催Think2018で登壇。
  • Q誕生前は、実機を使う研究が無かった。実機利用で、改善と発展を肌身で感じ、実装ノウハウ構築。実機による理論検証や実機のための新理論・新技術。まだ量子コンピューティングは開発中でそれにリアルで触れる。Slack上での情報交換。IBM常駐の人も居る。量子金融、化学、AI、システム実装チームの4チーム。
  • モンテカルロ計算(株価変動)。


量子ソフトウェア実装(慶應義塾大学 環境情報学部 教授  量子コンピューティングセンター 副センター長Rodney Van Meter氏)

  • 日本語ぺらぺらな人。
  • Keio Q Hub Teamの4つのチームの1つ。
  • QISKITが標準プログラミング言語。その下にOpen QASMOpen Pulse、そしてHardwareQISKITの上にOptimizersLibrariesApplications。階層化されている。慶応チームはQISKIT中心で全部。Member企業はOptimizersより上。IBMは全部。
    • 注釈:そのものの図がGoogle先生に軽く聞いても無かったが、以下のような図で、QUSKIT中心に横向き▲が描かれている感じ。
  • IBM Qはチップ名TokyoPoughkeepsizeSystem One等で徐々に性能向上。Tokyoは別に東京にあるわけではない(すべてニューヨーク)
  • 良く書かれるもので○は量子ビット、線はCNOT結合。量子ビットや結合の精度が異なっている。品質が違う。その上でシステムをどう組むか。チップの上でどう利用経路を最適化するか。20では縦に4つ、横に5つ、格子状かつ所々×印クロス結合の図で示される。Var x を左上の0yを右下の20とし、どうルートをたどるか。4つあるとQ0, Q1 or Q2, Q3へ。PathA0-1-3)、PathB0-2-3)のどちらがいいか。グラフ理論。QOPTER(コンパイラ)。コンパイラとハードウェアをともに改良すると性能改善。(← https://miro.medium.com/max/700/1*u0Ly-RliQusIH-qNZkTcqw.png のような図の説明)
https://medium.com/@jonathan_hui/qc-quantum-programming-implementation-issues-51e3a146645e
  • 簡単な回路は計算途中はシミュレータで確認できるが、複雑なものを実機で使うと量子が壊れる。ソフトとハードは一緒に進化すべし。今後手動最適化手法の自動化、大規模ソフトウェア開発ツールが研究テーマ。
  • 今後はAIネイティブだけではなくQuantum Nativeへ。


量子AI(三菱ケミカル株式会社 Science & Innovation Center 主任研究員 高 玘氏)

  • 量子AIチーム。目標としては手法の開発、実機の使いこなし、実データの計算。量子コンピュータへのデータを埋め込む手法の開発、量子コンピュータ版機械学習手法の開発、実機を用いたベンチマーク、実機を用いた金融・科学の計算、の4つに分かれる。
  • IBMは世界で初めて実機でAI研究を行い、natureに掲載。
  • 2020年には37%のデータにビジネス上の価値がある。40ZBのデータ量。計算のスピードUPは必須。AIでも量子コンピュータと同様に相互作用の重ね合わせ状態を作成することで、短時間で機械学習できないか。現在は実験場Quantum Ready、その後Quantum AdvantageQuantum Business。現在のうちから人材育成を。
  • 株価が上がるか下がるか、貸付OKか、みたいな分類問題。AIにおいては重要。古典よりbig data解析に優れていると期待されているが、予測精度にばらつきがあり、実用に向けて改良が必要。
  • 古典派データセットからAIKernel計算、AI分類でボトルネックがKernel計算。ボトルネック部分を量子にエンコードして計算。エンコードの改良も必要。量子空間を作成し、計算後、実空間へ戻す。(16次元)
  • Keio Q Hubでは最先端の実機が利用でき、分野横断で専門家がおり、研究を進める環境が整っており、大学とIBM、参加企業の協業で、予想以上に研究を進められる。量子AI実用はここ数年は正念場。ユーザ企業として世界に後れを取らず長期目線で積極的に研究を進めることが重要。今後競争が激しくなる。


量子金融(みずほ情報総研株式会社 サイエンスソリューション部 チーフコンサルタント 宇野隼平氏)

  • 金融業界ではテクノロジーデジタルを起点と舌構造改革を推進。新技術の1つとして量子コンピュータに注目。他にAI、ブロックチェーン、IoT、ビックデータ、クラウド。
  • 量子金融チームはみずほ、三菱UFJファイナンシャルグループ。他に大学教員、IBM
  • 金融商品価格評価への適用。様々な価格変動シナリオを考慮しシミュレーション。長時間コンピュータを使う計算の一つ。量子コンピュータの重ね合わせ状態を使うことで、様々なシナリオを同時に計算することで高速化への期待。2018年、Xanaduからアルゴリズム提案。IBMで実機を用いたデモ計算。
  • 現在の量子アルゴリズムは量子演算の回数が多い。多いと計算困難。より短い演算へ。提案手法は量子コンピュータで別々に実行し古典コンピュータで後処理。長さを95%削減。2019年に共著論文として公開済み。ただ実機だと理論値ほど性能がでない。ノイズの影響。(5量子一般公開だと)
  • Q Hubは金融機関以外の知見も活用しオープンイノベーション。今後JPMorgan等との提携も視野。他の金融機関の参加もお待ちしております、と。


量子科学(JSR株式会社 四日市研究センター マテリアルズ・インフォマティクス推進室 次長 大西裕也氏)

  • JSRと三菱ケミカル。
  • なぜ化学?:化学現象のより深い理解で分子、材料のデザイン。化学現象は熱力学、統計力学、量子科学で表現。量子科学は材料の微視的、電子的性質に深く関与し、精密に制御できれば革新的材料の設計へつながる。ただ従来の手法では精度が不足。
  • 太陽電池、発光デバイス、分子スイッチ、窒素固定、電極反応等。高精度な量子科学計算が必要な課題が多い。
  • 量子科学の問題を高精度に=正確な波動関数を得る、表現すること。電子が詰まっているものを1、入ってないものを0としてマッピングし自然に表現できるのでは。仮に質の良いQubit100できれば、一番量子科学への応用が早いのでは。現在の古典では2,3原子が限界でこれ以上増える見込みが薄い。
  • 量子位相推定アルゴリズムと、変分的量子固定値計算法の2通りが提唱されている。
  • リチウム空気電池のVQE計算。現状の電池より5倍以上の性能が可能。充放電に関わる化学反応を計算し、材料設計への応用につなげる。AlgorismUse CaseHardwareをくるくる回しつつ、Software、モンテカルロ、AIを組み合わせる。


パネルディスカッション

  • 会社紹介となぜ参加したか
    • JSR株式会社 四日市研究センター マテリアルズ・インフォマティクス推進室 室長 永井智樹氏
      • 合成ゴムを作る会社として半官半民からスタート、その後民営化。半導体材料、ディスプレイ用材料も手掛ける。光ファイバとかも。戦略事業としてバイオ系へ。B to Bビジネスで、客の要望に応じてカスタマイズしていち早く届けるところで強豪と戦っている。いかに早く試作品を届けるかはキーになる。量子コンピュータの計算能力は材料開発のブレークスルーになるのではと思い参加。
    • 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 事務・システム企画部 上席調査役 栗山英樹 氏
      • 金融課題をグループ全体で拾い上げて解決できないか検討。経営環境の変化+テクノロジーの変化。既存のビジネスモデルそのものにチャレンジすることが必要。紙の資料をデジタル化、大切な話だけを人が受ける、融資判断スピードのUP。取り組まないと金融業自体が成り立たなくなる。
      • デジタライゼーション戦略。改善、改革、非連続。量子コンピュータは技術の谷を越えた非連続部分にある。パラレルでやっていかないとダメ。改善はAIやビックデータ。改革はAIによる業務判断、審査等。Q Hubで、人材育成、攻め、守りのアプローチに期待。暗号プロトコル、機械学習、ポートフォリオリスク管理等の最適化。銀行はかなりのシステムがあるがいつから変えるか、機械学習はいつから丸一日回さなくても済むのか。ある日突然PCをもらってできる話ではない。
    • みずほ情報総研株式会社 サイエンスソリューション部 次長 加藤大輔氏
      • Fintechの流れ。変革が加速している。ビックデータ、AI、分散型台帳、ブロックチェーン、スマートフォン送金。Q Hubで汎用型量子コンピュータの活用に関する研究を開始。今は基礎研究。One MIZUHO戦略でグループ一体で客の課題を解決。みずほ情報総研のサイエンスソリューション部では50年近く、100%外向けで、研究開発部門の客の課題解決。金融系以外でも。汎用型量子コンピュータで何ができるか、できないか、できそうか見極め、できそうなものを対象に、どうすればできるのか検討中。使えるようになってから参入ではなく、今から参入することが必要。
    • 三菱ケミカル株式会社 新事業創出部 上席主幹研究員 竹内久雄氏
      • 6つの成長ドライバーを組み合わせた成長戦略。生産性向上・効率化による競争力、R&DM$A、、、。
      • R&Dでは分子設計、機能設計、共通基盤の組み合わせで様々な製品の開発。「デジタル材料科学」はこれからのキープラットフォーム。化学物質は星の数ほど多いが探査できている数は限られている。次の新しいものを星の海から引っ張ってくる。デジタル変革の波の中で、材料のモデリングの意義を改めて見直す。3,40年前から量子っぽい計算をやっていた。そしてAIも一つのフェーズ。量子コンピュータがチャンスか脅威か。破壊的技術か。それそのものを理解して自らやっていく必要がある。AIと違うものを探すのもミッション。
  • 目標が達成できたか? 感想と期待
    • JSR
      • まだ。結果は出ておりこれから重要になる論文も出てきている。期待を上回っているが。得たものは、人材育成。急にPC持ってこられても対応できないのでネイティブ人材を。量子コンピュータに対して距離感が分かってきた。当初は期待過ぎたが。解決すべき問題が分かってきた。2020年代後半くらいにビジネス適用計算ができるのではと期待。まだEarly Stage
    • MUFG
      • 一周年。走りながら組織を作り、試行錯誤しつつ、最終的に金融チームで論文2本。会社にも持って帰った。実機に触りながら今の実力を把握できた。それぞれが自分が何をすべきか、イノベーション、どう実装するか、でもう一段上の発想を実感として持ってこられたのが成果か。発信も一緒にしていきたい。Hardwareをお願いしつつUse Caseはグループ一丸となって発掘したい。
    • みずほ
      • 人材育成は進んだ。Hubに入るまで量子コンピュータに触ったことが無かったが、1年で習得し、世界に戦えるレベルまで育ってきた。慶応、IBM、会社、学生の環境が非常に良い。情報が得られやすい。今後について、Hardware進歩は期待したい。Hubの成長も。新しい研究領域で、世界最高域の組織に成長してほしい。
    • 三菱ケミカル
      • 今朝論文が出た。まさか論文が1年で出るとは。現状を一年前は理解できてなかった。量子科学のPGは大きく、とても少人数で1年でできるものではない。高級言語でコンパクトに作れる状況が身近にあることに気が付いていなかった。見通しが1年で得られたのは非常に大きな成果。新しい応用事例を増やしたい。今スピードや精度で追いつかなくてもすぐHardwareが追い付くのでぜひ日本から出していきたい。協調領域としては理想的。
    • 日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 研究開発担当  森本典繁氏
      • 良縁と幸運に恵まれた。半年で契約、アナウンス、カンパニーにお邪魔、とスピーディー。優秀な研究員。ただのOpen Innovationではなく世界最先端のHardwareAcademia、実学。実際にそれが何に使えるのか最初から視野に入れた研究開発が重要。IBMとしてもどう世の中にインパクトを出せるか難しいが、点と道しるべができたのがIBMとしても成果。世界に初めてのものを触るので、先生も生徒もない。今後、日本の代表として、Hubが世界に先駆け、リードしていくことを期待したい。6,7人から30人までメンバーも増えた。
    • まとめ 慶應義塾大学 量子コンピューティングセンター センター長 山本直樹氏
      • 4社の現場から参加いただき、議論。研究者はオリジナリティだの理論だの言いだしたがるが、役に立つもの、使えるもの、人類発展を捨てないでほしいとのアドバイスをJSRから受けた。産学連携しないと分からないこともある。

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