2020年12月29日火曜日

【本紹介】ここはウォーターフォール市、アジャイル町 -ストーリーで学ぶアジャイルな組織のつくり方-(沢渡あまね、新井剛著)

 出版社(翔泳社)の「ブックアンバサダー企画」(https://markezine.jp/article/detail/34654 #翔泳社ブックアンバサダー )として、レビューを書いてほしいと、頂いた本。(専用のコードをいただき、出版社のサイトから注文し、送付いただく形式。)厚さ2cmくらいで軽め、物語部分と知識説明部分が交互に出てきて、文書としては読みやすく、3時間ほどで一気に読めた。
 物語としては、突然情報システムの運用部隊に放り込まれた主人公が、日々問い合わせやクレームで炎上しっぱなしの運用チーム、運用のことを考えない開発チーム、勝手に決まる修正仕様、チーム内・チーム間の断絶、といった「IT部門あるある」な状況を目にして無力感を味わいつつも、ふと参加したアジャイル勉強会で刺激を受け、カイゼンに取り組んでいく。
「毎度こんな感じ」「何を言っても無駄」という無力感溢れた職場。
 特に運用チームはリリース、機能追加のたびに利用者からの問い合わせや文句に悩まされ、設計、開発は運用のことまで考える余裕はない。(自分は設計、運用側だが、開発専門の担当者に「こうしてくれないと運用で困るのでヨロシク」と言っても、運用を便利にするような仕様や、運用ユースケースはなかなか理解、納得してもらえなかったりする。)
 主人公は、勉強会で出会った人が薦めるままに、まずは属人化が進む運用チームに、チケット管理、朝会・夕会、ホワイトボード、ふせん、といったアジャイルでまずよくある方法から取り入れていく。どうしてこういった手法が有効なのかは、知識説明部分でしっかり説明されているので、アジャイル説明本を読んだことがない人でも手軽にやれそうな感は醸し出されている。(こういった「やれそう」感は大事なのだろう。)
 比較的初心者向けのような感じで進んでいるが、既にこういった手法を導入している人にも「そういえば」と思わされる点は多い。ちゃんと「振り返り」をしているか。やりっぱなしになっていないか。さらにカイゼンできないか。一つうまくいくとそのまま終了してしまいそうなところだが、それではそこで止まってしまう。「Story of Story」等、振り返りと軌道修正の話は、どれほどうまくいっていると思っても考えておくべきポイントだろう。
 
 読み始めた頃はなぜこのタイトルなのかと思ってたが、最後の方で「なるほどなぁ」と思った。ウォーターフォールの会社や組織でどのようにアジャイル的な考えを入れて組織改革、カイゼン、セイチョウ(カタカナ)していくか。だから、アジャイル町なのか。
 確かに、大抵の組織はウォーターフォール型で構成されていることが多く、その中でカイゼンしようとすると、部門、組織の壁にぶつかり、上司からは「うちにアジャイルは合わない」と言われ、内部はやり方を変えようとしない。協力会社や外注など、文化の壁も分厚くて高い。
 その中でどう自分から変えていくか。
 難易度としてはたぶんIT部門ではない人でも楽に読める感じだろうが、チケットシステム、コラボレーションツール等導入しようとすると、その辺りはサービスの例しか触れられていないので、有識者か、別の本等に頼る必要あり。(まぁこういったものは大抵の組織で既に使われているだろうが。使われなくなっている可能性も高いだろうが……。)
 

 チーム外とのコラボレーションをより推進する方法として、オフィスの空間デザインについても語られている。こういった自然にコミュニケーションが進む方法は最近だとどこのオフィスも少しは考えつつ対応しているだろう。
 まぁそういった「自然なコミュニケーション」が例に出されるところで、この本の主流なシチュエーションとしてはコロナ禍の前だが、最後、エピローグでは、新型コロナウィルスだと言及はされていないがまぁ誰しも想定できる原因で、リモートワークに入っていく。この本の執筆時期が2018年か20年か、22年か、によって、物語の内容は結構変わっただろう。
 この本では先にFaceToFaceでのカイゼンや成長のループが回り始めてからテレワークに入ったので、ちゃんちゃんと進めましたよ、との話だったが、もし2020年4月の人事異動からスタートしたら、リモートありきのコミュニケーション、カイゼンになっていただろう。
 米国等ならリモートでのアジャイルが当たり前になっているのかもしれないが、日本だとこれまで在宅勤務の制度はあったとしても、小規模なベンチャーIT企業以外は「ほぼ全員が強制リモートワーク」は初めての経験だろう(弊社もそうだった)し、主人公が最初に入ったこの組織の状況でリモートに突入したらまぁ言わずもがな。
 この本に第二段が出るなら、完全にリモートワークだの、地方や海外からの勤務でまったく顔を合わせない等、そういった中に突然放り込まれてリモートからどのようにカイゼンするか、チームを超えてどうコミュニケーションするか等、「現実世界で起こるちょっとした偶然の立ち話」等が発生しない状況での日本ならではのチーム作り、ネットワーク県、アジャイル町についても是非語ってほしいところ。

ここはウォーターフォール市、アジャイル町 ストーリーで学ぶアジャイルな組織のつくり方 [ 沢渡 あまね ]

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