2019年7月27日土曜日

慶應義塾大学理工学部創立80年記念イベント(2019/6/26)感想等 -量子コンピュータ編(午後)-


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IBM Q Network Hub @ Keio University presents 量子コンピュータ最前線(午後)

午前より参加者がかなり多い。開始五分前で1F席がほぼ埋まっていたようで2F席に案内された。(午前は1F席も割とガラガラだったが。)外国人が多く、日本語講演も特定の人たち向けの同時翻訳が行われていた様子。

挨拶(慶應義塾大学 理工学部長 岡田英史氏)

  • モアムーアの世界に到達しているが、何が起きるのかは予測できていない。昨年IBM Qにアジアで唯一接続できる拠点として選択されたので、量子コンピューティングセンターを立ち上げて研究推進。アジアのハブなので協力企業の参加もあり精力的に推進している。


量子コンピュータ最前線(慶應義塾大学 理工学部 教授 量子コンピューティングセンター ファウンダー 伊藤公平氏)

  • 量子ビットではふり幅と位相。棒磁石で考えると、古典ビットでは縦向きとその逆しかありえず横向きがエラー。量子ビットはラビ振動でエネルギーを与えているうちは振動を繰り返す。横向きは0でもあり1でもあり、測ってみると50%の確立で0。これがものすごいパワーになる。それを2つ準備すると、最初0からエネルギー与えて横向きにして、もう一つは少し遅れて同じようにして、の差(位相差)が重要。これらすべてを利用することで量子コンピュータのパワーが発揮される。
  • 3つの量子ビットを横向きにすると、000でもあり001でもあり8通りの数字を含む。10進数でいうと0~7までの数字すべてを含み、2のn乗通りの数が一気に処理でき、200量子ビットは2の200階乗、1.6×1060乗、宇宙の原子数を一気に計算できる。
  • 初期かはすべて上向き。演算でNOTにして逆向き。1つの量子ビットの状態で位相を変える(量子ビット演算)で、すべての量子コンピュータプログラミングが実施される。最後に一つ一つ読みだす。ふつうのPCと違うのは0or1ではなく0でも1でもありさらに位相に情報が載る。量子ビットの数が多い、演算精度、回数、速度が性能指標。100%の精度は得られないので精度が問題。情報を失うまでにどれだけ回数ができるか。Quantum Volume(量子体積)はIBM提案の指標で、大きくなるほど性能があがる。
  • 今の量子コンピュータはゲート方式、万能量子コンピュータ。IBMGoogleRigetti等。イジングマシン方式(最適化方式)、アニーリング方式、レーザーネットワーク方式等もある。
    • アニーリングは量子ビットをたくさん用意して真横にして重ね合わせて相互作用を操作して自然に落ち着くまで待つ。積極的にゲートでNOT演算しない。D-WaveNEC。古典コンピュータによる量子アルゴリズムを行うシミュレータ・シミュレーションもある。「シミュレーションの結果」とは古典で量子走らせたものを言う。それを早くすると、日立CMOSアニーラー、富士通デジタルアニーラー、東芝シミュレーテッド分岐アルゴリズムがあり。
    • レーザーネットワーク方式は準量子。国立情報学研究所とNTT
  • アメリカは220億円/年。日本は220億円/10年(Q-Leapプログラム)。ヨーロッパでもPJあり。中国では知らないレベル。
  • 日本は基礎研究は相当進んでいる。Top1%論文の割合で、2011年は一位だが今は4位。
  • 量子コンピュータは物理現象の解明、難病の治療薬、人口肥料、その他さまざまな分野へ活用。
  • 超電動量子コンピュータ IBM 50量子ビット。Google72Intel49Rigetti19Intelはシリコンを使って量子コンピュータ作っている。300mmレベルのコンピュータをオレゴンで開発。
  • 意味のある計算をするため、量子ソフトウェア企業が立ち上がっている。MDRMicrosoft等。開発は激烈。何ができるか、を頑張らないと国、企業として負けてしまう。
  • まず、2023年にかけて、現在のコンピュータの発展を支え、ムーアの法則を維持するため、苦手な部分を補完するコンピュータ、ソフトウェアの開発。2028年に、従来の計算性能を飛躍的に超越する量子シミュレータ、コンピュータ、ソフトウェアの開発。Quantum Leap、量子跳躍。
    • それでも一部の分野にとどまる。創薬、化学製品、医学、高度な金融派生商品等。
  • JSTの「さきがけ」で量子の状態制御と機能化、で日本から30名ほど選び研究のアドバイザ、マネジメント。
  • QLEAP予算は産業課のためのスタートアップ資金。投資につながる礎。6つのPJが走っている。冷却原子、シリコン等ハードウェア部門もあり。ソフトウェアも大阪、慶応等。


IBM Q SystemIBMリサーチ IBM Q ネットワーク グローバル・リード Dr. Anthony Annunziata

  • 英語講演+逐次翻訳。
  • Bits + neurons +qubits。将来を担うが唯一の技術ではない。伝統的なPCbitAIneuronを組み合わせて作っていくのが将来のコンピューティング。
    • Bit01.今後何年も継続する。
    • Qubitsは量子縺れ、重ね合わせを基本的な構造として持つ。今後の重要な要素。
  • 単に演算が早い、ではなく、まだ解くことができない難しい問題が解ける可能性があることで騒がれている。
  • IBMでは2年前に3つのPGを立ち上げ。Q SystemQISKIT CommunityQ NetworkQ SystemIBM外部にも使ってもらう。CommunityOpen Software
  • Q OpenQ PremiumSimulator1850万を超えるExecutions。非常にパフォーマンスが高い実行が増えているのも注目に値する。ソフトウェア、ツールもそろえている。研究論文も172件として順調に伸びている。


IBM Q HubKeio(慶應義塾大学 理工学部 教授 量子コンピューティングセンター センター長 山本直樹氏)

  • IBMワトソン研究所にPG送信し、計算結果が戻ってくる。本体があるわけではない。ニューヨーク。ほとんどは冷やすための器具でできている。(←ちらっとPowerPointで出された写真では、有馬温泉にひょこひょこ立っている温泉設備の鉄塔ようなものが山奥にぽつんとある感じ。下は写真では隠されていて分からない。https://newswitch.jp/p/11726 この写真か?(←よく見ると全く温泉設備とは異なっていた……))
  • Hub参加企業としてJSR、三菱UFJ、みずほ、三菱ケミカル等。
  • IBN主催Think2018で登壇。
  • Q誕生前は、実機を使う研究が無かった。実機利用で、改善と発展を肌身で感じ、実装ノウハウ構築。実機による理論検証や実機のための新理論・新技術。まだ量子コンピューティングは開発中でそれにリアルで触れる。Slack上での情報交換。IBM常駐の人も居る。量子金融、化学、AI、システム実装チームの4チーム。
  • モンテカルロ計算(株価変動)。


量子ソフトウェア実装(慶應義塾大学 環境情報学部 教授  量子コンピューティングセンター 副センター長Rodney Van Meter氏)

  • 日本語ぺらぺらな人。
  • Keio Q Hub Teamの4つのチームの1つ。
  • QISKITが標準プログラミング言語。その下にOpen QASMOpen Pulse、そしてHardwareQISKITの上にOptimizersLibrariesApplications。階層化されている。慶応チームはQISKIT中心で全部。Member企業はOptimizersより上。IBMは全部。
    • 注釈:そのものの図がGoogle先生に軽く聞いても無かったが、以下のような図で、QUSKIT中心に横向き▲が描かれている感じ。
  • IBM Qはチップ名TokyoPoughkeepsizeSystem One等で徐々に性能向上。Tokyoは別に東京にあるわけではない(すべてニューヨーク)
  • 良く書かれるもので○は量子ビット、線はCNOT結合。量子ビットや結合の精度が異なっている。品質が違う。その上でシステムをどう組むか。チップの上でどう利用経路を最適化するか。20では縦に4つ、横に5つ、格子状かつ所々×印クロス結合の図で示される。Var x を左上の0yを右下の20とし、どうルートをたどるか。4つあるとQ0, Q1 or Q2, Q3へ。PathA0-1-3)、PathB0-2-3)のどちらがいいか。グラフ理論。QOPTER(コンパイラ)。コンパイラとハードウェアをともに改良すると性能改善。(← https://miro.medium.com/max/700/1*u0Ly-RliQusIH-qNZkTcqw.png のような図の説明)
https://medium.com/@jonathan_hui/qc-quantum-programming-implementation-issues-51e3a146645e
  • 簡単な回路は計算途中はシミュレータで確認できるが、複雑なものを実機で使うと量子が壊れる。ソフトとハードは一緒に進化すべし。今後手動最適化手法の自動化、大規模ソフトウェア開発ツールが研究テーマ。
  • 今後はAIネイティブだけではなくQuantum Nativeへ。


量子AI(三菱ケミカル株式会社 Science & Innovation Center 主任研究員 高 玘氏)

  • 量子AIチーム。目標としては手法の開発、実機の使いこなし、実データの計算。量子コンピュータへのデータを埋め込む手法の開発、量子コンピュータ版機械学習手法の開発、実機を用いたベンチマーク、実機を用いた金融・科学の計算、の4つに分かれる。
  • IBMは世界で初めて実機でAI研究を行い、natureに掲載。
  • 2020年には37%のデータにビジネス上の価値がある。40ZBのデータ量。計算のスピードUPは必須。AIでも量子コンピュータと同様に相互作用の重ね合わせ状態を作成することで、短時間で機械学習できないか。現在は実験場Quantum Ready、その後Quantum AdvantageQuantum Business。現在のうちから人材育成を。
  • 株価が上がるか下がるか、貸付OKか、みたいな分類問題。AIにおいては重要。古典よりbig data解析に優れていると期待されているが、予測精度にばらつきがあり、実用に向けて改良が必要。
  • 古典派データセットからAIKernel計算、AI分類でボトルネックがKernel計算。ボトルネック部分を量子にエンコードして計算。エンコードの改良も必要。量子空間を作成し、計算後、実空間へ戻す。(16次元)
  • Keio Q Hubでは最先端の実機が利用でき、分野横断で専門家がおり、研究を進める環境が整っており、大学とIBM、参加企業の協業で、予想以上に研究を進められる。量子AI実用はここ数年は正念場。ユーザ企業として世界に後れを取らず長期目線で積極的に研究を進めることが重要。今後競争が激しくなる。


量子金融(みずほ情報総研株式会社 サイエンスソリューション部 チーフコンサルタント 宇野隼平氏)

  • 金融業界ではテクノロジーデジタルを起点と舌構造改革を推進。新技術の1つとして量子コンピュータに注目。他にAI、ブロックチェーン、IoT、ビックデータ、クラウド。
  • 量子金融チームはみずほ、三菱UFJファイナンシャルグループ。他に大学教員、IBM
  • 金融商品価格評価への適用。様々な価格変動シナリオを考慮しシミュレーション。長時間コンピュータを使う計算の一つ。量子コンピュータの重ね合わせ状態を使うことで、様々なシナリオを同時に計算することで高速化への期待。2018年、Xanaduからアルゴリズム提案。IBMで実機を用いたデモ計算。
  • 現在の量子アルゴリズムは量子演算の回数が多い。多いと計算困難。より短い演算へ。提案手法は量子コンピュータで別々に実行し古典コンピュータで後処理。長さを95%削減。2019年に共著論文として公開済み。ただ実機だと理論値ほど性能がでない。ノイズの影響。(5量子一般公開だと)
  • Q Hubは金融機関以外の知見も活用しオープンイノベーション。今後JPMorgan等との提携も視野。他の金融機関の参加もお待ちしております、と。


量子科学(JSR株式会社 四日市研究センター マテリアルズ・インフォマティクス推進室 次長 大西裕也氏)

  • JSRと三菱ケミカル。
  • なぜ化学?:化学現象のより深い理解で分子、材料のデザイン。化学現象は熱力学、統計力学、量子科学で表現。量子科学は材料の微視的、電子的性質に深く関与し、精密に制御できれば革新的材料の設計へつながる。ただ従来の手法では精度が不足。
  • 太陽電池、発光デバイス、分子スイッチ、窒素固定、電極反応等。高精度な量子科学計算が必要な課題が多い。
  • 量子科学の問題を高精度に=正確な波動関数を得る、表現すること。電子が詰まっているものを1、入ってないものを0としてマッピングし自然に表現できるのでは。仮に質の良いQubit100できれば、一番量子科学への応用が早いのでは。現在の古典では2,3原子が限界でこれ以上増える見込みが薄い。
  • 量子位相推定アルゴリズムと、変分的量子固定値計算法の2通りが提唱されている。
  • リチウム空気電池のVQE計算。現状の電池より5倍以上の性能が可能。充放電に関わる化学反応を計算し、材料設計への応用につなげる。AlgorismUse CaseHardwareをくるくる回しつつ、Software、モンテカルロ、AIを組み合わせる。


パネルディスカッション

  • 会社紹介となぜ参加したか
    • JSR株式会社 四日市研究センター マテリアルズ・インフォマティクス推進室 室長 永井智樹氏
      • 合成ゴムを作る会社として半官半民からスタート、その後民営化。半導体材料、ディスプレイ用材料も手掛ける。光ファイバとかも。戦略事業としてバイオ系へ。B to Bビジネスで、客の要望に応じてカスタマイズしていち早く届けるところで強豪と戦っている。いかに早く試作品を届けるかはキーになる。量子コンピュータの計算能力は材料開発のブレークスルーになるのではと思い参加。
    • 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 事務・システム企画部 上席調査役 栗山英樹 氏
      • 金融課題をグループ全体で拾い上げて解決できないか検討。経営環境の変化+テクノロジーの変化。既存のビジネスモデルそのものにチャレンジすることが必要。紙の資料をデジタル化、大切な話だけを人が受ける、融資判断スピードのUP。取り組まないと金融業自体が成り立たなくなる。
      • デジタライゼーション戦略。改善、改革、非連続。量子コンピュータは技術の谷を越えた非連続部分にある。パラレルでやっていかないとダメ。改善はAIやビックデータ。改革はAIによる業務判断、審査等。Q Hubで、人材育成、攻め、守りのアプローチに期待。暗号プロトコル、機械学習、ポートフォリオリスク管理等の最適化。銀行はかなりのシステムがあるがいつから変えるか、機械学習はいつから丸一日回さなくても済むのか。ある日突然PCをもらってできる話ではない。
    • みずほ情報総研株式会社 サイエンスソリューション部 次長 加藤大輔氏
      • Fintechの流れ。変革が加速している。ビックデータ、AI、分散型台帳、ブロックチェーン、スマートフォン送金。Q Hubで汎用型量子コンピュータの活用に関する研究を開始。今は基礎研究。One MIZUHO戦略でグループ一体で客の課題を解決。みずほ情報総研のサイエンスソリューション部では50年近く、100%外向けで、研究開発部門の客の課題解決。金融系以外でも。汎用型量子コンピュータで何ができるか、できないか、できそうか見極め、できそうなものを対象に、どうすればできるのか検討中。使えるようになってから参入ではなく、今から参入することが必要。
    • 三菱ケミカル株式会社 新事業創出部 上席主幹研究員 竹内久雄氏
      • 6つの成長ドライバーを組み合わせた成長戦略。生産性向上・効率化による競争力、R&DM$A、、、。
      • R&Dでは分子設計、機能設計、共通基盤の組み合わせで様々な製品の開発。「デジタル材料科学」はこれからのキープラットフォーム。化学物質は星の数ほど多いが探査できている数は限られている。次の新しいものを星の海から引っ張ってくる。デジタル変革の波の中で、材料のモデリングの意義を改めて見直す。3,40年前から量子っぽい計算をやっていた。そしてAIも一つのフェーズ。量子コンピュータがチャンスか脅威か。破壊的技術か。それそのものを理解して自らやっていく必要がある。AIと違うものを探すのもミッション。
  • 目標が達成できたか? 感想と期待
    • JSR
      • まだ。結果は出ておりこれから重要になる論文も出てきている。期待を上回っているが。得たものは、人材育成。急にPC持ってこられても対応できないのでネイティブ人材を。量子コンピュータに対して距離感が分かってきた。当初は期待過ぎたが。解決すべき問題が分かってきた。2020年代後半くらいにビジネス適用計算ができるのではと期待。まだEarly Stage
    • MUFG
      • 一周年。走りながら組織を作り、試行錯誤しつつ、最終的に金融チームで論文2本。会社にも持って帰った。実機に触りながら今の実力を把握できた。それぞれが自分が何をすべきか、イノベーション、どう実装するか、でもう一段上の発想を実感として持ってこられたのが成果か。発信も一緒にしていきたい。Hardwareをお願いしつつUse Caseはグループ一丸となって発掘したい。
    • みずほ
      • 人材育成は進んだ。Hubに入るまで量子コンピュータに触ったことが無かったが、1年で習得し、世界に戦えるレベルまで育ってきた。慶応、IBM、会社、学生の環境が非常に良い。情報が得られやすい。今後について、Hardware進歩は期待したい。Hubの成長も。新しい研究領域で、世界最高域の組織に成長してほしい。
    • 三菱ケミカル
      • 今朝論文が出た。まさか論文が1年で出るとは。現状を一年前は理解できてなかった。量子科学のPGは大きく、とても少人数で1年でできるものではない。高級言語でコンパクトに作れる状況が身近にあることに気が付いていなかった。見通しが1年で得られたのは非常に大きな成果。新しい応用事例を増やしたい。今スピードや精度で追いつかなくてもすぐHardwareが追い付くのでぜひ日本から出していきたい。協調領域としては理想的。
    • 日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 研究開発担当  森本典繁氏
      • 良縁と幸運に恵まれた。半年で契約、アナウンス、カンパニーにお邪魔、とスピーディー。優秀な研究員。ただのOpen Innovationではなく世界最先端のHardwareAcademia、実学。実際にそれが何に使えるのか最初から視野に入れた研究開発が重要。IBMとしてもどう世の中にインパクトを出せるか難しいが、点と道しるべができたのがIBMとしても成果。世界に初めてのものを触るので、先生も生徒もない。今後、日本の代表として、Hubが世界に先駆け、リードしていくことを期待したい。6,7人から30人までメンバーも増えた。
    • まとめ 慶應義塾大学 量子コンピューティングセンター センター長 山本直樹氏
      • 4社の現場から参加いただき、議論。研究者はオリジナリティだの理論だの言いだしたがるが、役に立つもの、使えるもの、人類発展を捨てないでほしいとのアドバイスをJSRから受けた。産学連携しないと分からないこともある。

慶應義塾大学理工学部創立80年記念イベント(2019/6/26)感想等 -AI編(午前)-

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文系・理系を超えたAI(人工知能)活用最前線(午前)

挨拶(慶應義塾大学 理工学部長 岡田英史氏)

  • 理系文系ともにAIすることとなった。文系理系越えた形での初期教育、今後の発展に結び付ける。新しい教育の在り方について話をする。


世界のAI研究と慶応のAI研究(慶應義塾大学 理工学部 管理工学科 教授 山口高平氏)

  • AIブームはもう3回目。知識駆動型AIとデータ駆動型AI。エキスパートシステムは当時10個くらい作ったが限界あり。
  • IBMのワトソン、Project Debaterが知識駆動型最新。(ディベートを行う)
  • ワトソンは社内ベンチャーで結構な売り上げを立てている。Project Debaterはディベートの例として「宇宙探索を助成すべきである」について準備15分、立論4分、反論4分、最終弁論2分。人間の地区チャンピョンと戦う。地区のチャンピョンくらいにはAIが勝てるが全米には勝てないレベルまで。オントロジー。意味リンクでのネットワークを構成。
  • 研究室ではWikipediaで意味ネットワーク作成。ヒト型ロボットで小学生の疑問に答える、老人への体操指導等。(Kinectで動作確認。)哲学者 「神様は存在しますか?」に対して「神と存在は関係ない」と答えた。(リンクが無かっただけ。)ただ哲学者に対しては面白かったとか。
  • Deep Learningによる画像認識コンテスト(ILSVRC)では人間のエラー率5%を超え、2.3%へ。150層近くのレイヤーを持つ。畳み込み型ニューラルネットワーク。認識系。
  • Word2Vec。言語処理系。Google。かなり精度が高い。
  • GAN。生成系。山の写真とモネの絵画から、モネが描きそうな山の絵画を。
  • WaymoGoogleからのスピンオフ)で8km7ドル料金でウェイモワン有料タクシー開始。
  • 事故はテスラ、ウーバーで発生。法律上どうするかは課題。
  • 自動運転解除レポートによる比較だと、18000kmくらいは自動運転できる。(自動運転が難しいと言われ人に変わるまでの平均距離。)現在ほぼアメリカが強いが、中国が延びている。Top10のうち3社中国。日産は300km。Apple社が特許No1だが、停止条件が違うからかランキング外。(レポート:https://www.yutainvest.com/google-waymo-proceed-on-the-way-to-selfdriving-car/ か?)
  • ロボットを小学校に出して実験。ロボットから議論に加わると子供たちは盛り上がる。聞いて答えるのは当たり前の時代。
  • 慶応の学園祭でロボットカフェ実施。接客をPepper、ジュースをロボットアーム。クレープに似顔絵を描く。
  • 質疑応答
    • データ精査の効率化は?
      • データハンドリング専用システムの統合が必要。データハンドリング研究はされている。90%がデータハンドリング。数年前から「大学はそこに関わらない」と言われ、準備中。
    • 専門家からみて教育をどうすべき?
      • 小学校からも講演依頼が来る。AIスピーカが数千円で変えるので、1日喋ってみると良い。体験が大事。AIの限界が分かる。


文系理系を問わず社会が求めるAI人財とは(KPMGコンサルティング株式会社 執行役員パートナー(理工学部 訪問教授)椎名茂氏)

  • コンソーシアム構想段階から参加している。NECAI研究。LISPでごりごり書いていた。そこからPwCKPMG。理工学部訪問教授へ。KPMGAIコンサルティング。スタートアップの支援も。
  • Alpha Goは過去データを学ばず、ルールだけ教えると、3日で人間最強の騎士の水準を越え、40日で既存のAIの能力を超えた。Alpha Goだけで対戦することで、人の変な癖を学ばずに済んだのでは。
  • 家電にAIが付くと終わる感じがある。そろそろ4次ブームが来るのでは。
  • AIプロジェクトの始まり:社長が言う、研究しろと言われる。いいカモ。実験するがなかなか形になるものはない。
  • IT系はプロジェクト組んで複数でやらないとうまくいかない。一人の天才が進めるのでもない。AIプロジェクトはまずチーム発足。まずデータを集めるのが先。データにアノテーションが一番時間がかかるところ。PDCA。プロジェクトを回せる人がAI人財。
  • 高校でも確率統計に加えて行列等AI、データサイエンス理解に不可欠な数学を学べる検討を進めている。大学ではすべての学生がAI、数理、データサイエンスの基本的な素養を身に着ける。
  • 基礎知識として、理論、PG言語、ツール、データ分析、ビジネスモデル考案、PM、企業立案。まずPGできないとおもちゃPGもできない。PythonUnity
  • 学生の就職先希望でコンサルが増えている。講師としてはコンサルは実働企業が無いと動けないので実働企業側への希望を延ばしたいが。研究職希望はあまり多くはない。AIベンチャーを立ち上げたいかに対して半数がYes
  • 理系文系関係なく、発想力、ものつくり、適材適所。データの意味を考えられる人。手が動く人間は必要。AI=社中協力。みんな仲良く総力戦で。


AI・高度プログラミングコンソーシアム」の紹介(慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科 教授 コンソーシアム代表 伊藤公平氏)

  • 学生たちを早くからそだてるためのAI高度プログラミングコンソーシアム。産学共同で取り組む枠組み。1,2年生が学ぶ日吉キャンパスにAI講座、サーバルームを設けた。コーディネータも雇用。
  • 適塾モデル。企画、運営を塾生が担う。コンソーシアム、サークル活動みたいなもの。法人会員9名。見学してアドバイス、実社会における活動の照会、現場見学会、AIコンテスト等。企業としては優秀な塾生との出会いの場。
  • 学生による運営は、Webサイトで公募。相談員、サーバ管理者も。シラバスを作って応募し、コーディネータが書類面接。学生によりさまざまなレベルの授業が準備できる。講義を準備してみると定員をはるかに上回る応募。単位にならないのに応募が多い。ニーズがあり学生の意識が高い。Unityは学部二年生が教えていたりする。欠席した者にもアシスタントが教えたり。競技プログラミングに向けた勉強とかも。
  • 競技プログラミングの例として、画像認識ポーカー。ルールや概要から2週間でプログラム提出。森とか海とかにトランプがばらまかれておりそれからポーカーの手を作る。5チームが提出したが、チャレンジ数はもっと多い。
  • 自らが望んで学び、自らが教えたい学生でできている。Webサイトでいろいろと公開。メンバー企業としてはいつでも参加できる。
  • 全員に初級教育はかなり難しい。(政府戦略で全大学生に初級教育。)サーバ、場所、そもそも講師が足りない。


コンソーシアム法人会員による5分間プレゼンテーション「企業でのAI活用例と求められる人財」(各5分程度)

  • 日産総合研究所 高松吉郎氏
    • 日産はIntelligent MobilityDrivingPowerIntegration
    • 車の中でAIグラスをかけてARつかって表示。車の外の人がアバターとして乗り込んで会話。
    • 今年の秋でProPilot2.0。高速道路での支援。
    • 横浜みなとみらい実証実験。Easy Ride
    • 学んでほしいことは、ITリテラシー(防具)、IT武器、AI×○○IT×○○AIを学ぶだけでなく何に使うか、何をするか。
  • 三井住友銀行 オハラ氏
    • コンサルとして日本総合研究所を持つ。Fintechが花盛り。Watsonをコールセンターに全席導入し、先回りして回答させる。離職率が下がっている。
    • AIを買う超下企業の業績状況変化検知システム、提供。個人向け株式提案サービス。
    • 人材としては、業務に通じている、技術力がある、構想力・デザイン・思考力。DIDXを企画・手動できる。
  • 伊藤忠商事 人事総務部 ノト氏
    • 次世代HRタスクフォース。人材とビジネスの面から。
    • Dole事業では、ドローンによりバナナ、パイナップル生育状況を把握、データの有効活用で生産効率の向上。伊藤忠としては自ら作成というより他のものを有効活用。
    • ファミマプラスチックの需要予測でコスト削減。配属の最適化。
    • 学んでほしいこと:幅広いテーマに興味、様々な人の話を聞いて視野を広げる。疑問を持ち物事を深く洞察。
    • AIや先端テクノロジー仕組みや特徴を把握。事業機会を想像できるトランスレータ。課題を見直し業務効率化を通じた生産性向上。必要に応じてテクノロジーを活用。今後の変化を予測。
  • カシオ計算機 人事部 中村氏
    • AI活用として、コンピュータ診断支援(医用画像)。皮膚疾患診断サポート。大学病院ドクターとの共同開発。スマートWatchでランナー向けAIコーチング。ランニングフォームの解析、アドバイス、コーチング。デジカメや腕時計で培われたノウハウをAI技術とMixさせて新しい事業分野へ挑戦。
    • 人材像:PGAIスキル、想像力、コミュニケーション、リテラシー、ビジネススキル。にしっかり勉強、たくさん遊ぶ、会話、興味を持つ、日経よく読む。
  • ジック SICK シブヤ氏
    • 産業用センサのグローバルリーダ。ヨーロッパ第一位のシェア。40000種のセンサ。
    • レーザを出して降ることで3Dで形状が取れる。車を13種類に分類。適切なルートに案内、交通量コントロール。空港での荷物あずけでトランクかそれ以外かを見分ける。95%は見分けられる。現場レベルで実用となるとまだスタートしたばかり。
    • 求める人材は、技術+マインドセット+社会の仕組み。AIネイティブとして啓蒙、変革を促し、AIファースト社会をリード。社会の仕組み:AI効果予測、権利関係。新しい技術には新しい仕組み。今の学生はAIネイティブ第一世代。
  • SOMPOホールディングス デジタル戦略部 長谷川氏
    • 安心・安全・健康のテーマパークを目指す。
    • 生活習慣病リスク予測AI。東芝の解析技術と組んで実装。個人のQOL、医療費増加改善。台風被害推定AI。被災地対応準備と、防災予測モデル。こちらは今進行中。台風予想から建物被害件数。
    • 人材:知識、探究心、動機づけ、オープンマインド。自分なりのAI人材に。既存事業への応用と新たなビジネスモデル。いろいろな観点を踏まえてAIの本質を。
  • パーソルキャリア サイトウ氏
    • PERSOL。テンプスタッフ、anLINEバイト、doda。売上高一兆円の総合人材グループ。
    • 企業求人票自動作成、マッチング、キャリアカウンセリング音声分析、HR×ブロックチェーン。動画×感情推測。対面×生体計測。AIを用いてより希望に沿った転職支援。ルールベースのマッチングから、機械学習と分散処理で、圧倒的な精度向上。
    • 人材:Business Problem SolvingData EngineeringData Science。データサイエンティスト協会が提唱するものと同じ。はたらくを自分のものにする力を。いかに発想できるか。精度だけではなくビジネスの課題をとらえてどう解決するか。AIだけではなく周辺知識も。
  • 東京海上ホールディングス ワダ氏
    • いざというときにお役にたちたい、をコンセプト。創業140年。
    • 色々なデータと向き合う。いろいろなことが幅広くできる。海外展開。
    • 大規模災害への対応として、人工衛星で被害地データを取得、各種外部データと合わせてAIにより浸水エリアと水深を把握。スピーディな自動支払い。
    • 専用ドライブレコーダを22万代以上に普及。運転データや事故動画で日本最大級。事故時に自動で通報、通話、運転注意喚起等。保険会社への事故報告を不要に。事故状況図を生成、過失割合判定。2年前から自動車保険特約としてレコーダつけることにしてある。事故の瞬間からさかのぼってまでとっている。命もすくっている。後々は自動車会社が付けるようになれば後方サービスを。
    • 人材:挑戦。社会的課題を解決して世の中をよりよくしたいという志を原動力に、真の変革に挑める人材。
  • 富士ゼロックス 根本氏
    • Document CompanyからSmart Work Innovationへ。
    • ミドルキャストのコミュニケーション。(NarrowBroadと比較してMiddleBusiness志向。)顧客の業務プロセスを理解しモデル化、知識DB活用、特定の文書業務に向くAIを。法規制文書、設計文書、申請文書等、客固有のデータの活用。分析に必要なデータは多くないので知識駆動型も組み合わせてドキュメントプロセス透明化。
    • 人材:効率的、創造的、快適な働き方を実現し、企業、組織を強くする。コアコンピテンシーはオントロジー、文生成、テキスト読解、情報推薦、マイニング、人間科学。Innovationを起こすためのQPQuestionPassion)。AI/IT人材像はデータサイエンティスト協会と同じく。



慶應義塾大学理工学部創立80年記念イベント(2019/6/26)感想等 -概要編-


概要

慶應義塾大学理工学部創立80年記念イベントシンポジウムの一つ。AIや量子コンピュータの企業利用がどの程度進んでいるのか、学生はどのような形で学んでいるのかについて聞ける珍しい機会だったので行ってみた。
 午前のAIは、大学でAIの講座をどのように開催しているか、協賛企業が問題解決でどうAIを使っているか、企業として学生に何を求めるか、が中心。各塾生(慶応大学は学生と言わず塾生と言うのか?)が自ら講義に参加し、そして講師まで担う、「適塾スタイル」(と言うらしい)が普通に回っていることに驚き。二年生くらいでシラバスを持って講師役に応募する塾生が居るとか。競技プログラミングは課題を与えられてから二週間でアルゴリズムの検討、プログラム開発から応募まで終わらせる。全体的にかなりレベルが高い感じを受け、今後AIの技術だけでなくビジネススキル、コミュニケーション、企画力等が高い学生が市場に出てきて活躍するのかと思うと、期待できそうでかつ少し恐ろしくもある。文系理系問わず学生にAI教育を行うとの指針が国から出ているそうだが、大学ごとの差は大きそうな感じがある。
 午後の量子コンピュータは、IBM Qにアジアで唯一接続できるのが慶応大学とのことで、日本、アジアから人、ノウハウが慶応に集約されている様子が語られる。古典コンピュータ(現在の形のコンピュータ)でシミュレーションを行うスタイルから、直接、まだ開発・進化中のQにつなぎ、Hardwareと共にSoftwareUse Caseも成長させる。Quantum Ready、その後Quantum AdvantageQuantum Businessへと進み、現在のコンピュータの不得意分野を補うところから、本格的な量子コンピュータの時代に入る。それまでに開発・利用のノウハウを構築しておかないと世界に乗り遅れる。AIはまだ手持ちでなんとかなるレベルだが、量子コンピュータはまだまだハードが限られており、こういうハードと共に成長する組織と共同研究する価値は非常に大きいのだろう。今後ハードまでCommodity化するかどうかあたりの話は聞けなかった。まだIBM Qに関しては、実機がニューヨークにあり、アジアの唯一のHubとして慶応がある、レベル。Hubという組織ができて1年で、量子コンピュータのビジネス利用における課題がかなり明らかになった様子。1年で組織形成から論文共著まで行くのはメンバーにとっても結構速いことだったとか。
 コンソーシアムはあと1年だがメンバー企業も募集中とのこと。



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