2021年8月31日火曜日

【本紹介】社長業のオキテ (斎藤 由多加 著)

  「シーマンを作った人」と言われるとなんとなく私も分かる、ゲームクリエイターの社長が、日経ビジネスオンラインに連載した記事を加筆修正、書き下ろしを加えた本。ソフトバンクの孫氏の解説によると、ビジネスマン向けの本を装っている、エンターテイメント本とのこと。

 社長になるためには「願望」が必要で、自分、社内に強力な願望エンジンがないと途中で行き詰まる。会社を起こすと社長のやることが増え、無駄も生じる。

 社員が増えて、全員で同じ目標を持ち、一体化して進めるなんて理想論。社員は社長と同じ願望を持たないのだから。

 社長になって初めて気がつく、タスクや問題の山。他社との契約はともあれ、採用面接や、資金繰り、マスコミ対応や上場。社長になるまでは誰かがやっていたものに一つ一つ向き合い、自分と社員で成功させていかないと、会社は立ち行かない。

 作りたいゲーム、願望があり、会社を起こした著者が、一人で創業最前線に立ち、何が向かってきて、どうこなしていったか。記事の加筆修正なので本としての盛り上がりやまとまりについては少し物足りないところがあるが、起業を目指すなら今でも、今すぐ手に取っておくとよいだろう一冊。

2021年8月15日日曜日

【本紹介】はじめてのグラフィックレコーディング

  出版社(翔泳社)の「ブックアンバサダー企画」(http://go.shoeisha.jp/c/axyaaty83fwQ58bG #翔泳社ブックアンバサダー )として、レビューを書いてほしいと、頂いた本。(専用のコードをいただき、出版社のサイトから注文し、送付いただく形式。)


 グラフィックレコーディングは、2年ほど前から、自分が勤めている会社でも経営側の考え方を示す一手法として、いわゆる「会社を良くするための方針検討を会社に命じられて行う組織」が会社上層部にインタビューしてその内容をグラフィックレコーディングとしてまとめて会社内に展開し始めたことで、そういった文化が生まれていることを初めて知った。それからなんとなくその言葉が気になってしまい、実は世の中でちらほら見られるようになっていることに改めて気が付いたり、会社としてもグラフィックレコーディング研修が開催されたり、組織としてなんとなく推されている感じが垣間見られるようになった。(結局研修には参加しなかったが。)

 ちょうどコロナ影響で対面打ち合わせ、ホワイトボードでのやり取りがごっそりなくなり、ほぼすべての打ち合わせがオンラインで行われるようになり、オンラインだと(弊社はSoundOnly+画面共有のみ。顔出し・動画は回線上NG)ホワイトボードに書きなぐるといったことがほぼ無くなってしまった。再び対面式会議が主流になった場合、以前の感覚を取り戻せるのか……。

 

 自分もこれまでちょこっとは絵を描いていたので、会社が提供するグラフィックレコーディングの結果イラストを見て、「いやこんなの打ち合わせ中に無理だろ難しいだろ」といった感じで見ていたが、この「はじめてのグラフィックレコーディング」本は、そういった「敷居が高い」感、「絵心がないとダメだろ?」といった「自分にはムリ」を、「グラフィックレコーディング」という共通技術としてマスターすることで、「自分でもできそうじゃない?」までうまく落とし込んでいる。

 線で構成すると人物や動きが簡単に描けること。目のパターン、口のパターンをおさえると生き生きとした表情が描けること。「きれいに見せる」ためのちょっとしたテクニック。色、影の効果的な使い方。面、線での動きの出し方。三色のペンを使う方法から、iPadを使いより時短&美しく仕上げる方法。

 途中に出てくる課題に従い(桃太郎を描いてみる等)、描いていくと、技術が確実に身についているのが分かり、実際の会議で使えそうな気がしてくる。

 まったくイラストを描いたことがない人から、多少は経験があるがスピードアップや打ち合わせをより円滑に進めるためのイラストを描く技術を習得したい人まで、一度読んで試しておくと必ず役立ちそうな、技術がしっかり説明された一冊。


↓実際に描いてみた図の一部

↓自己採点。適当に描いて、また本を読んで添削すると、学ぶところが多い。きれいに見せるには「●は●としてきちんと描く」「線と線の起点をきれいにくっつける」は重要ですね。




↓表情パターンを活用してみた例(というには今一つだが)。眉の角度、目、口の種類、丸い顔で方向の付け方等。




はじめてのグラフィックレコーディング 考えを図にする、会議を絵にする。 [ 久保田 麻美 ]

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【本紹介】AIソフトウェアのテスト 答えのない答え合わせ[4つの手法]

 AI系の教育用の本として入手。企業でAIソフトウェアを導入するには、「研究開発で精度が上がって良かったね」、といった時代は過ぎ、テスト、品質保証は当たり前の流れとして各メンバーに理解してもらい、方法を考えてもらう時代に突入しているため、こういった話は避けて通れない。


 これまでのロジック型ソフトウェアでは、プログラムを開発し、そして使ってもらう前に、テストを行い、品質保証をするのは「当たり前」。

 ではその「当たり前」は、AIを活用したプログラムの場合、どうすればよいのか?

分かりやすい例としてまず示されているのが、年齢層により傾斜で変わる入場料。

ルールがあって普通にロジック組んでプログラムし、きちんと限界値テストすれば、間違った結果を出すプログラムを提供するリスクは極めて低いだろう。ではそれを、「入場料と年齢との履歴を教師データとして与えて、年齢を入力として入場料を出力とする」AI(ロジックは不明)にした場合、正しい出力は得られるのか? どうテストすればよいのか?


 AIでは、限界値テストができない。同じ入力で同じ出力が出るとは限らない。人間なら、今日の考えをよりブラッシュアップしたものが明日ふと思いつくかもしれないのは良いことだろう。だが、特に業務に特化したAIは、今日の出力と明日の出力が変わることを許容できるのか。変わる理由をヒトは説明できるか。

 ディープラーニングの登場等で、AIは人間とは異なる思考パターンで結果を出すことがある程度許容されているとはいえ、同じ細胞の画像を入力して、昨日は末期のガン、今日は全く元気、といったガン判定システムは許されないだろう。

 ではまだ発展途上ともいえるAIソフトウェアの世界で、どのように「正しい答えを出している」テストを行うか。

 この本では、その「答えのない答え合わせ」をするための考え方が、いくつかの例に基づいて示されている。実行環境はPython3.6.8。Windowsユーザ向けのインストール方法、tensorflow、keras等のライブラリインストール方法も書かれている。テスト用ツールやデータは出版社のサイトからダウンロードできる。

 まずは良く使われる数字画像認識モデル、住宅価格予測モデルの動作確認から。そのあたりは既に実践済みの人をターゲットとし、メインは、テストの考え方や実践方法。論理式、数式を用いてしっかりと解説されている。ある程度のAI知識がないと論理部分はかなり難しい。

 メタモルフィックテスティング、ニューロンカバレッジテスティング等、検証方法の考え方、検証ツールの実行例等が丁寧に解説されている。例えば、MNIST(数字画像データ認識)の方法として、画像データを5度回しても同じ結果になるか、ぼかして同じ結果になるか、といった考え方、実践方法は特に分かりやすい。住宅価格予測モデルだと、「この部屋の広さでこの値段はあり得ない」といった必ず守っておきたい条件を使う方法が示されている。


 ある程度もうAIに十二分に触れて中の仕組みも分かっており実践もしている人が、結果の説明を求められたり、精度を少しでも上げる方法の検討を求められたり、既に動いているシステムのVersionUp時に同じような出力が出せるのかの検証など、実践・活用の一歩先を考える必要が生じた場合に手に取りたい一冊。





AIソフトウェアのテストーー答のない答え合わせ [4つの手法] [ 佐藤 直人 ]

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